私の家にいる義母――ばあちゃんが認知症になったのは、5年前のこと。
お薬を飲んでも、「飲んでない」
お風呂でシャンプーしてるのに、「まだしてない」
着替えを促せば、「もったいないから、明日でええ」
そんな風に、時間の感覚がズレていく世界の中で、昔と変わらない“ばあちゃんらしさ”だけは、しっかり残っていました。
今日は、そんなばあちゃんに寄り添いながら、私が試してきた「お風呂」と「着替え」の小さな工夫をお届けします。
ばあちゃんの認知症介護「母と娘」
ばあちゃんは、長い事、一人で暮らしていました。
昔から、家に風呂がなかったので、

銭湯は週に2回でもええ!
そう言って、なるだけお金を使わない生活をしていました。
そんな暮らしをずっと続けてきたばあちゃんが、ある日、私たち家族と暮らすことになって――
“清潔”とか、“毎日の習慣”とか、当たり前にしてきたことのズレが、じわじわと見えてきたのです。
昔ながらの暮らしが当たり前だった頃
トメ子の所に来る前、ばあちゃんは義姉(ゆりえ)の家にいました。
そこには、ちゃんと内風呂があったけど……
やっぱり、ばあちゃんは変わりませんでした。
義姉自身も昔から、倹約家のばあちゃんに育てられてるので、別に、週に2日のお風呂でも、普通のことだったんです。
それが……。
ばあちゃんに認知症の症状が….。
義姉の家で暮らし始めて、2〜3年が経った頃のことです。
少しずつ、ばあちゃんの言動に「あれ?」と思う場面が増えてきました。
たとえば、さっき飲んだはずの薬を、また飲もうとする。
「さっき飲んだよ」と言っても、ばあちゃんは――

いーや、飲んでない!
目を見て、真剣な顔でそう言い張るんです。
そしてある日――
何十分経ってもお風呂から出てこないばあちゃんの様子を見に行くと、すでに顔は真っ赤に茹で上がっているのに、まだ髪を洗おうとしていました。

ばあちゃん、もう何回、髪洗うの?

お前、おかしなこと言うなー。ばあちゃん、髪、洗ったらあかんのか?
こうなったら、もう聞きません。
そんなやり取りが、毎日のように続いていたそうです。
「変わらないばあちゃん」に合わせて、私が変えた暮らしの工夫
トメ子の家に来てから、ばあちゃんを病院に連れて行きました。
――診断は「アルツハイマー型の重度認知症」
作話も多く、ついさっき言ったこともすぐ忘れてしまいます。
正直、どんなに言い聞かせても、状況が変わることはありませんでした。
でもある日、私はこう思ったんです。
「変えようとするんじゃなくて、“変わらないばあちゃん”に合わせてみよう」って。
たとえば、ーー【お風呂の時間】ーー
認知症のばあちゃんは、自分でも気づかないうちに、体や髪を何度も何度も洗ってしまいます。
そんなばあちゃんに寄り添いながら、私・トメ子が試してきた「お風呂対策5選」をご紹介します。
認知症の人が、お風呂で何度も体や髪を洗ってしまう時の対策5選
シャンプーやボディソープの“量”を減らしておく
・使いすぎを防ぐため、1回分だけボトルに入れる or 詰め替えずに「空」にしておく。
物理的に「もうないよ」と示すのが効果的です。
時には、言い方も工夫する
認知症のばあちゃんにとって、「洗った・洗ってない」や「もう十分」なんて感覚は、なかなか通じません。
例えば、「今日、シャンプー切らしてて、明日買ってくるから」とか、
アイスを用意しておいて、

ばあちゃん、上がったらアイスがあるから早く上がってきたら
ストレートに「もう洗ったよ」と言うよりも、“ちょっとした言い方の工夫”でスムーズに流れを変えるようにしています。
他にも、こんな声かけをして
お風呂に入ってるばあちゃんには、

ばあちゃん、お湯がちょっと冷めてきたかも〜。もうええんとちゃう。
とか、「この前テレビでやってたけど、長湯してたら美肌にはいいけど、のぼせ注意”やって!」
みたいに、時間を見て声掛けするのも有効的です。
「入りたがるのに“入った感覚”がない」時は、足湯で気持ちを落ち着かせる
時には、デイでお風呂に入れてもらってるのに

入ってない!入れてもらった事なんかない。
と言い張る場合は、「お湯抜いちゃったけど、足湯だけでもしよか?」と提案するのもいいアイデアだと思います。
本人の“きれいにしたい気持ち”を否定せずに満たします。
デイサービスの活用も視野に。“安心して出てこられるお風呂”が大切
それでも不安な場合は、プロの見守りがある環境を活かすのも良いと思います。
今年の冬は、ばあちゃんにお風呂使って貰えたらと手すりをつけてもらいましたが、
何度も洗って、長いこと出てこない間に冷めてしまったお風呂から出てきたばあちゃんは、きまって、

お前らが焦らすから!風呂も冷めて寒いし
って、震えながら髪も乾かさずに、私たちの言うことも聞かなくなって――
無理に入れようとせず、週3回のデイサービスのお風呂だけで様子を見ることにしました。
結果、それで十分きれいを保てたし、ばあちゃんも落ち着いてくれたんです。
最後に|“変えようとしない介護”という選択肢
そんなふうに、お風呂の習慣ひとつ取っても、ばあちゃんの“変わらない部分”に合わせていくのが、今のわが家のやり方です。
着替えについても、ばあちゃんの“本音”を想像してみたことで、最近は朝、出かける前にスッと着替えてくれるようになりました。
ばあちゃんはよく、「そんな毎日、着替えんでもええ」「もったいない」って言うけれど――
きっと心の奥では、

毎日洗ってもらうのは気の毒や
でも、

ほんとは、きれいな下着で過ごしたい」そんな気持ちもあるんやろな
って、思っています。
『変わらないばあちゃん』の中にある、言葉にならない想いに近づいていくこと。
それが、今の暮らしを穏やかに回していくために、大切なことだと感じています。
ちなみに、そのときのちょっと笑えるエピソードは▶『おでん:卵からむき選手権【認知症のばあちゃんとの暮らし】』でお話ししています。
ここまで、お読み頂きありがとうございました。
三段腹トメ子
